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「景子と」 総集編その1 
2012 / 10 / 17 ( Wed )
「景子と」 総集編その1

第1章 キス~京都の下宿にて

始まりはいつだろう。京都三条のイノダ珈琲からの帰り、彼女が腕を組んできたときか。二の腕に彼女のあまり大きくない胸のふくらみが当たり、どこかギクシャクと京阪三条までの道を歩いた。「嫌だった?」「ちょっと驚いた」。その数日後、和歌山の小島住吉という海辺の町に行った。海岸で夕陽が落ちるのを観た後、日の暮れたバス停には私たち二人しかいなかった。彼女が腕を組んできたかと思うと、前に回って抱きついてきた。私も彼女の背中に腕を回して、抱きしめようとすると・・・、バスが来てしまった。

このころから、時間の問題だった。今思えば、彼女はその先を知っていたのかもしれない。私にとっては未知の世界で、でも彼女に触れてみたかったし、それが二人の関係にどんな影響を及ぼすのかを知りたくもあった。

そして、さらに数日後、梅田の毎日文化ホールで一緒に映画を見た土曜日の昼下がり、私の京都の下宿に二人で行くことになった。私は山陰地方である植物の種をサンプリングした帰りで、大き目のスーパーの袋を両手にぶら下げていた。「この種をどこかにおかないと邪魔やん」というのが下宿に行く理由であった。が、二人ともそれが口実なのは分かっていた。とにかく、二人きりになりたかった。邪魔の入らないところで。

京阪電車に乗っている間、彼女は私に身体をくっつけてきた。「私、おかしいのかな。こうしてくっついてたいんやけど・・・」彼女の身体は骨ばっているところがあるかと思うと、妙に柔らかいところがあったりする。不思議な感触だった。

京阪四条から203番のバスに乗り浄土寺で降りる。吉田山に向かって100mほど歩いたところが私の下宿だった。大家さんは少し離れた家に住んでおり、その下宿は学生だけが4人で間借りしていた。部屋はかなり散らかっていたので、彼女は一目見るなり、「うわー、これは・・・褒めてあげるわ・・・。とにかくちょっとかたずけよう」と言った。部屋の隅に種の入った袋を置いて、二人で部屋の掃除を始めた。といっても、10畳ほどのひと部屋だけなので、そんなにはかからない。ゴミをまとめ、本やガラクタを棚に戻し、掃除機をあてる。30分ほどで終わり、部屋の隅に積んだ布団にやれやれと二人してもたれかかった。

古い家だったので、天井には合板ではなく本当の板の木目が見える。どこまで行くのかはともかく、お互いに踏み出す気持ちは決まっていた。彼女が身体を寄せてきて「密室に二人だけは危ないね」と悪戯っぽく笑う。「そうやね」と彼女を抱き寄せた。彼女は前にボタンの付いた鶯色ワンピースを着ていた。丈は膝が隠れるくらいあり、ベージュのストッキングを履いていた。後から分かったが下には白のブラスリップを付けていた。抱いた身体は、やはり、柔らかかったり、骨ばっていたりする。石鹸だかシャンプーだかの香りがする。「最後まではしないでね」「うん」。私は全くの未経験だったので、少し気が楽になった。そのまま、しばらく、じゃれあうように抱き合っていた。柔らかな胸の感触があり、足が絡まり、頬が触れ合った。かなり興奮するが、何をどうしてよいかよく分からなかった。無難なところに手を這わせながら、じゃれあっていた。

抱き合いながら、相手の耳元で色んなことを話した。こうして触れ合っていると、お互いに本音を話せるようだった。最初に出会ったときの印象、好きになったきっかけ、こうなることは何時ごろから意識したか・・・。いつの間にか、かなりの時間が経っていた。抱き合い始めたころはまだ明るかったが、外はすでに薄暗くなっていた。

私たちは相変わらず、強弱の波こそあれ、お互いに横になった状態で抱きしめ合ったり、足を絡めたりしているだけだった。ふと、そーだ手を握って、抱き合って、その次はキスをするんじゃないか、なんてマニュアルみたいなことが頭を掠めた。そーだ、キスをしよう。彼女の頬も唇も私の目の前にある。頬や額はお互いに何度も触れ合っているのだ。私は彼女の頬にキスをした。そして、少しずつ彼女の唇に私の唇を近づけていった。「ん」と彼女はそれを嫌うような素振りをしたが、抱き合っている私から身体を離そうとはしなかった。それどころか、私の背中に周っている彼女の腕に力が入り、より強く抱きしめてきた。お互いに上になったり下になったりしながら、何度か唇へのキスは拒絶された。が何度目かに、唐突な感じで初めて唇が重なった。それは柔らかい接触でほんの1秒か2秒の出来事であった。彼女は、今のは事故だったのよ、とでも言いたげに、何もなかったような素振りで抱き合いじゃれあってきた。それでも、やがてもう一度唇が重なり、そして3度目はお互いに相手の唇を確かめるようなゆったりしたキスになった。もう彼女も嫌がらなかった。そして何度目かのキスのとき、今考えてもどちらからなのかハッキリしないが、お互いの舌が絡まりあった。彼女の舌が細かく前後に動き、私の舌がそれを捉えようと上下に動いた。性の官能が私たちを捕らえ始めていた。その先の何かを求め合うように何度も何度も舌を絡め合ううちに、彼女の目は潤み頬は紅潮して、もどかしそうに、私の手をワンピースの胸の上へと導いた。

ワンピースの下にはブラジャーがあり、少しごわごわしていたが、その下には小振りだが柔らかいものが収められている、そんな感触だった。「小さいでしょ」「触っていい?」「うん」。ワンピースのうえのボタンを3つほど外し、手を入れた。ブラジャーだと思っていたものはブラスリップで、すべすべした布が胸の下の方につながっていた。ブラスリップの下に手を入れ、彼女の胸のふくらみをじかに触る。柔らかい。そして、乳首に触れる。そこだけが少し固い。彼女が自分でブラスリップの肩紐を外した。乳房が小振りなせいか、ブラジャー部分を少し下に引っ張ると、簡単に胸が露わになった。「きれい」「恥ずかしい」。しばらく手のひらで弄んでいると、彼女の息が少し荒くなってきた。「なんか・・・、気持ちいいよ・・・」。たまらなくなって、私はまた彼女の唇を奪い、舌を入れて彼女の舌を吸った。

彼女も舌を入れ返してきた。お互いの舌がもつれるように動き、激しいディープキスが続いた。と、彼女が身体を起こし、私の上に馬乗りになった。ワンピースの袖とブラスリップの肩紐はまだ二の腕に引っかかっているが、上半身のボタンは外れ、白い小振りな胸が露わになっていた。ブラスリップは乳房の下に引っかかっている。彼女は官能に身を任せようとしていた。はれぼったい目で私を捕らえ、普段はきりりとしている口元が妖しく動いていた。「火がついたみたい。なんとかして・・・」、と彼女が言ったが、キスも胸への愛撫も私にとっては初めての経験で、彼女と同じように充分に興奮はしていたが、この先なにをどうしていいのか分からなかった。

「なんとかしてと言われても・・・」。多分、間の抜けた顔をしていたのだろう、彼女はもどかしそうに唇を寄せてきた。舌を絡めながら、私は彼女の両方の胸に手を這わせた。愛撫を繰り返すうちに、乳房はしっとりと柔らかくなっていく。熱を帯びて血行が良くなるせいかな、なんて妙に理系っぽい分析がちらと頭をかすめた。こんな状態でもまだ冷静な部分があるのは少しおかしかった。乳房とは逆に乳首は刺激を求めるように固くピンと立っていた。指で軽くつまむようにすると、彼女はビクンとして、「あっ・・・いや・・・」と、私の指から逃げるように身体を起こした。私は手のひらで包むように彼女の乳房を揉んだ。「ああ・・・、気持ちいい」と、身を反らせるように動く。彼女は私の太ももあたりを跨ぐように乗っていたが、やがてその太ももに股の間を擦り付けるように前後に動き始めた。

ワンピースのすそが乱れて、スリップのすその白い飾り模様が露わになっている。ストッキングはパンティタイプなので、その部分への刺激は2枚の布を通しての穏やかな(まどろっこしい?)ものだろう。どうしようか迷ったが、私は左手に右の乳房を弄らせたまま、右手で彼女の膝に触った。その手をゆっくりとスリップの中に滑らせて、その部分に触れようとすると、彼女の手がそれを抑えた。「今日は、そこはダメ・・・」。自ら刺激を得ようとはしていたが、私のそこへの愛撫を許せば、たぶん最後までいってしまう。最初に「最後まではしないでね」と言ったように、まだ彼女にその覚悟はないようだった。そういえば、私のその部分はまだ一度も触れられていなかった。全てが初めての体験で、私の頭は充血し興奮してはいたが、冷静な部分が消え去りはしていなかった。彼女がまだその気でないなら、押し切るつもりはなかった。右手を左の乳房に戻し、ゆっくり動かしてその柔らかさを楽しむことにした。彼女も腰の動きを止め、目を閉じて乳房への愛撫に意識を集中して感じようとしていた。「他人に触られるのって気持ちいいね・・・。もっと強くしてもいいよ」「でも、柔らかくてすべすべしてるから、おかしな触り方すると傷つけそうで・・・」。彼女は微笑むと、私を見つめてきた。身体を倒し、私の耳元で「普通のキスをしよう」と言った。唇が近づいて、私たちは目を閉じて普通に唇を合わせた。

その後もしばらく抱き合い、穏やかなキスを繰り返したが、次第に官能の火は収まってきた。続けるなら、次はお互いの最も敏感な部分への愛撫は避けられない。焦らないで、ゆっくりやろう。お互いにそんな気持ちだった。外は完全に真っ暗になっていた。もう8時を過ぎていた。大阪の彼女の家までは2時間近くかかる。親と同居しているので帰らないわけにはいかない。「そろそろ、帰らんとあかんやろ。今からでも10時を過ぎるで」「離れたくないな」。それでも彼女は身を起こし、衣服を整え始めた。「私だけ脱がされて・・・。そっちは、着たままやん」と、悪戯っぽく笑う。「だいたい、そういうもんやろ」と照れていうと、彼女はまた抱きついてきて、キスをしてきた。今度は舌が絡まる激しいキス。でも、30秒ほどで、身体を離し「帰る・・・」と言った。

二人で部屋を出て、バス停まで送っていった。「また、来週来るね」と彼女は手を振りながら、バスに乗り込んでいった。上気した気分のまま、部屋に戻った。積んである布団にもたれかかると、うっすらと彼女のにおいがする。布団に顔を押し付けてみると、そこには彼女の石鹸だかシャンプーだかの匂いが残っていた。


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